小柴教授がニュートリノ研究でノーベル賞を受賞したことは記憶に新しい.地球でさえほとんど素通りしてしまうニュートリノを検出するため,地下の5万トンの水のタンクを備えた神岡のスーパーカミオカンデという巨大検出器でニュートリノの反応を検出するという大事業がこの快挙につながった. |
ハイペロン(重核子)とういのもれっきとした物理用語だ.世の中の物質を構成する普通の原子は陽子と中性子からなる原子核のまわりを電子が回るという構造をしているが,この陽子と中性子のことをまとめて核子(英語はnucleon)という.そして核子というのはアップ・クォーク(u),ダウン・クォーク(d)という2種類のクォークからできている.uudなら陽子でuddなら中性子である. |
ガミラシリウムとイスカンダリウムは,ガミラス星とイスカンダル星にある元素として『新た』に出てくる. |
高々100余りしかない元素に比べ,鉱物というのは断然種類が多い.国際鉱物学連合(IMA)が新たに発見された鉱物の審査・認定を行なっているが,その数は約4000にも上り,いまだ着実に増加しつつある. 語学的な側面についてコメントしておくと,ガミラシリウム,イスカンダリウムの -ium という語尾は「素」の意味で,元素名によく見られる語尾.新たに命名される元素名も -ium の語尾をもつ.つい最近も110番元素がダルムスタティウムと命名されたばかりだ. |
パート1のアステロイドベルトは架空の十番惑星のなれのはてであるが,パート2でアンドロメダの追撃を振り切るときに利用した小惑星帯は火星と木星の間にある現実のものである. 次に,上で用いた公式の「検算」を試みてみたい.まず,D=1 km で N=70万ということから,比例定数 c=70万である.次に公式を微分すると,
1 m以上の小惑星に着目すると,『ヤマト』で描かれているアステロイド・ベルトの密度もそれほど非現実的なレベルではないように思えてきたが,話はこれで終わりではない.1 mより小さな小惑星(…というより,ここまでくるともう岩というべきかもしれない)は無視していいかというと,宇宙空間ではそうもいかない. 2013年8月追記:この問題はSF界では定番らしく,ヤマトには言及はないが,大昔のアニメ雑誌『アニメック』1984年11月号p.138-139の志水一夫「間違いだらけの“アステロイド”」でも扱われていた.それによると,「宇宙の難所」としてのアステロイドベルトの描写はエドモンド・ハミルトンのキャプテン・フューチャー・シリーズの『謎の宇宙船強盗団』(ハヤカワ文庫)やアシモフのデビュー作「真空漂流」にも出てくるそうだが,アシモフは「トロイの墓場(The Trojan Hearse)」というエッセイでそのような描写を否定しているという.アシモフは小惑星の数を20万個として平均間隔を1000万マイル(約1600万キロ),比較的密集したところでも100万マイル(約160万キロ)とした.志水氏は小惑星の数を100兆個として計算しなおして約3400キロとしている.(私の上記の試算より小惑星の数が多いのに間隔が広いのは,私は円軌道上に均等に並んでいるという一次元的な仮定をしたのに対し,三次元的な分布をベースとして計算したからだろう.) |
『宇宙戦艦ヤマト・パート1』では,地球を飛び立ったヤマトは火星,木星,土星(タイタン),冥王星と進んで太陽系外に出る.なぜかヤマトが旅立つときには惑星を順番にめぐっていくが,あたかも惑星が一直線上に並んでいるかのようである. |
ボイジャーに関連して,つい先日(2003年11月),ボイジャー2号が太陽系の果てに到達しつつあるとの報道があった.太陽系の果てというと,冥王星軌道とかカイパーベルトあたりを想像してしまうが,もう少し物理的な「果て」があるそうだ. |
『宇宙戦艦ヤマト・パート3』では,太陽系から2番目に近い恒星であるバーナード星に地球型惑星があって,人類の入植者がいる(なぜかアメリカ開拓時代風). |
『宇宙戦艦ヤマト・パート1』では放射能が重要な役割を果たしているが,そのわりに放射能というものについて根本的な認識がずれているのが惜しまれる. |
(2019年6月)『宇宙戦艦ヤマト』パート1ではイスカンダルから放射能除去装置「コスモクリーナーD」が提供され,それにより遊星爆弾で放射能汚染された地球が元の青さを取り戻す.(放射能除去と地球の青さは別の話なのだが,それは別項で.)放射能汚染というのは2011年の東日本大震災に伴う東電の原発事故で日本人には身近なものになってしまった.現実に広い地域が放射能で汚染され,多くの人が避難を強いられ,いまだ帰還できていない人も多い. |
(2019年6月)『宇宙戦艦ヤマト』パート1の最終話では,イスカンダルから持ち帰った放射能除去装置のおかげで,海水が干上がって赤茶けた地球が青さを取り戻すカットがある.あれは象徴的な場面であったとしても,続編を見ると数年後に海が復活しているのは間違いない.だが科学的に,そんな短時間で海ができないことは明らかだ. |
(2019年6月)『宇宙戦艦ヤマト』パート1では,ヤマトがイスカンダルに向けて旅立つ時点で人類滅亡までのあと「1年」と期限が切られ,回が進むごとに「人類滅亡まであと××日」とカウントダウンして見る者をはらはらさせた.だが1年後の「人類滅亡」って何だろうと子供ながらに思っていた. |
『ヤマトよ永遠に』の暗黒星団帝国は地球の末裔を名乗ったが,ロダンの「考える人」の左右が異なっていたことで馬脚を現わした.実はこの「右と左」を非経験的に説明するのは,現代物理学の知見を用いて初めて可能になるのである. |
『宇宙戦艦ヤマト・完結編』では銀河系の核部分に別の銀河が衝突し,ガルマン帝国が壊滅する.途方もなく壮大な話に聞こえるが,実は銀河の衝突というのは宇宙の歴史の中では日常茶飯事である. |
『宇宙戦艦ヤマト・パート3』ではガルマン帝国の放ったプロトンミサイルの流れ弾(←どうやらワープ機能も持っているようだ)が太陽につっこみ,太陽の核融合反応が加速してしまう.1年で人類は地球に住めなくなり,その後太陽は超巨星となり超新星爆発を起こすとされた. |
(2013年11月追記)パート1ではイスカンダルにダイヤモンドでできた山だか島だかが出てきた.かなり荒唐無稽な設定だと思っていたが,天文学上では炭素惑星ないしダイヤモンド惑星と呼ばれる存在は真剣に語られているらしい.Wikipediaによれば,炭素が多く酸素が少ない環境で生まれた惑星は二酸化ケイ素(平たく言うと「岩石」)を主体とする太陽系の惑星とは異なり,地殻が黒鉛やダイヤモンドでできている可能性があるという.2012年に55 Cancri eという惑星をダイヤモンド惑星とした発表には異論も出ているらしいが(参考),今後発見される可能性は残っている. |
(2013年12月追記)ヤマトに限らずアニメで空中戦というと,主人公が巧みな操縦桿さばきでひらりと機体を翻らせて敵機を撃墜するというイメージだが,現代の空中戦はそんなものではないということを赤塚聡『ドッグファイトの科学』(2012)で知った. |
(2014年2月)物理からは離れるが,現実にあった三段空母の実情について,大内建二『航空母艦「赤城」「加賀」』(光人社NF文庫)p.78-89で知ったことを書いておきたい.
太平洋戦争中の軍艦の模型に夢中になった世代であれば,三段空母と聞いて日本の空母「赤城」「加賀」の初期の形を思い出すはず.だが私は三段式の飛行甲板の意味については本書で初めて知った(プラモの解説に書いてあったのかもしれないが,覚えていない←と書いてから,赤城・加賀は作っていなかったことを思い出した). |
(2014年4月)脱線ついでに,当たり前のように見ているヤマトの後に傾斜した煙突だが,戦艦大和のそのようなデザインは排気や熱気が艦橋に及ぶのを防ぐためのものだった(Wikipedia).大和以前の陸奥では,建艦当初は直立型の煙突であったが,高速走行時に煙突からの煙が逆流して艦橋に吹き込んだり視界を曇らせたりするため苦情が出て,後方に屈曲したデザインに改装し,その後曲げた煙突は各艦に採用されるようになったという(吉村昭『陸奥爆沈』新潮文庫版p.35-36). |
(2013年12月追記;2014年1月補足)往年のヤマトファンにとってはイスカンダルまでの距離「14万8千光年」は強くインプットされているので,新作『ヤマト2199』で「16万8千光年」となっているのを聞いて違和感を覚えたはずだ.天文学上の研究の進展によるのだろうが,そもそも大マゼラン星雲(「星雲」というのは銀河系内の星雲と系外銀河が区別されていなかった時代の用語なので,「大マゼラン銀河」というほうが正確)までの距離はどうやって測るのだろう. |
(2015年1月)大マゼラン,小マゼランというと銀河系のお隣の銀河として知られているが,実はもっと近い銀河がここ20年ほどでいくつかみつかっていることを半田利弘『宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学』p.143で知った. |
(2015年1月)『パート1』ではガス生命体に追われたヤマトが活を求めるのはオリオン座のアルファ星ベテルギウスだった.これは地球から約642光年の距離にある赤色超巨星である.(「ベータ星」とする資料もあったように思うが,それだと青色超巨星リゲルなので絵と合わない.)このたび半田利弘『宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学』p.83で指摘されているのを見てはっとしたのだが,赤色巨星のように膨張した星は密度が小さくなり,特に外層部では地球大気よりはるかに薄くなるので,宇宙船で赤色巨星の内部に突入しても窓の景色からは気づかないかもしれないほどだという.(ベテルギウスの場合,半径が太陽の1000倍,質量が20倍なので平均密度は太陽の5000万分の1.)それにそもそもベテルギウスは現在きわめて不安定な状態であることがはっきりしており,近い将来(…というのは天文学では100万年後くらいも含む)超新星爆発を起こすと予想されている(Wikipedia). |
(2015年1月)『ヤマト』では第十番惑星のなれのはてがアステロイドベルトになっており,その外側にさらに第十一番惑星という惑星があって,基地まであるという設定になっていた.(2006年に準惑星に格下げされた冥王星が当時は第九番惑星であった.) |
(2016年1月)ワープ航法のおかげで大マゼランとの間を一年で往復するのはいいとして,太陽系内ではワープテストを別として通常航行しているようだ.少なくともヤマト以前の地球防衛艦隊にワープ機能はないし,遊星爆弾もしかり.超大型ミサイルもそうだろう.ガミラス侵攻当初の地球防衛艦隊や遊星爆弾はどのくらいの時間をかけて飛んでいたのだろうか. |
(2019年6月)ヤマトの初期の資料ではヤマトの性能として「光速の99%」と書いてあった.光速の99%だとウラシマ効果とか光行差とか赤方偏移/青方偏移とかいろいろ不思議なことが起こるはずが,そこは問わない.ただ,どのエピソードを見てもそんな高速で飛行しているように見えるシーンはない.七色星団で艦載機の猛攻を受けているとき,光速の99%を出せるなら簡単に振り切れるだろうと子供ながらに思っていたものだ. |
(2016年1月)宇宙空間で「ヤマト発進!」と唱えてエンジンを噴射させてヤマトが動き出すシーンはよくあると思う.だが,「エンジン噴射=動く」「エンジン停止=止まる」という素朴な概念は物理的には正しくない.船にしても自動車にしてもエンジンを動かせば動いて,エンジンを切れば止まるが,これはあくまでも地球上の摩擦・抵抗のために動力がなければ動けないという事情のため.宇宙空間では,ひとたび航行を始めればその後はエンジンがなくても進み続ける.ボイジャー1号の場合,主なミッションが終わった後もエンジン噴射なしで秒速17km(太陽を基準として測った速度)で進み続けているという. |
『さらば宇宙戦艦ヤマト』では突然見え出した謎の白色彗星について真田さんはまず,パルサーとかクェーサーとか呼ばれている電波星と同じパターンだと説明する.クエーサーなら地球から遠ざかるはずという指摘に真田は「歴史上,初めて発見された地球に近づいてくるクェーサー」だと言う.そして拡大投影したところ「彗星じゃないか」となる.長年苦しい展開だと思っていたのだが,宇宙戦艦ヤマト2202の第2話では「クエーサーのような」というだけでさらりと流していてほっとした.少し説明したい. |
(2020年4月)『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』のラストシーンだったと思うのだが,宇宙空間で古代とデスラーが共に甲板上に立って語り合う場面があった.『ウルトラセブン』でも,ウルトラ警備隊の普通の隊員服のまま宇宙空間をひもで引かれて地球に帰ってくるシーンがあったし,昔の作品は宇宙空間の描写が甘いものがままある. 旧作ヤマト乗組員のヘルメットのデザインでもわかるように,『ガンダム』前は「宇宙服」なんてやぼったいものをヒーローが着ることは許されなかった.だがわかっている人がいなかったわけではなく,数年前に雑誌で,ヤマト製作中に担当者が宇宙空間でヘルメットなしは無理と訴えたのだが上が聞いてくれなかったと読んだ. |
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